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第503号 2000(H12).01発行

Click here for PDF version 第503号 2000(H12).01発行

解説

表紙中央 水稲育苗箱全量施肥法について
 水稲の栽培に必要な全肥料を育苗箱に施肥しようとする新しい施肥法
 弊社「苗箱まかせ®」を用いた接触施肥(肥料を種子や根に接触施与する)である。

 

 

新しい農業環境への対応

チッソ旭肥料株式会社
社長 太田 孝

 明けましておめでとうございます。年頭にあたり読者の皆様方におかれましては,本年が実り多い年でありますよう心からお祈り申し上げます。

 昨年の日本経済は民間需要の牽引力は欠けたものの,財政出動により,99年度の政府目標の0.5%成長は達成可能であると判断されておりますが,依然として設備投資は低調で,又バブルの負の遺産は大きく企業のリストラ,雇用不安等多くの問題が残された年でありました。本年は本格的な景気回復の年にしたいものです。

 さて,農業をとりまく環境は,新食糧法のもとでの新たな米政策の実施はあるものの過剰在庫や米の関税化が加わりさまざまな矛盾を残した状況が続いております。また,ダイオキシン騒動や遺伝子組み換え食品問題等これまでになく品質・安全に対する関心の高まりも見られました。

 39年続いた農業基本法に代わり新たに食料・農業・農村基本法が制定され,その基本理念には食料の安定供給,農業の多面的機能の発揮,農業の持続的発展,農村振興が掲げられ,21世紀に向けての我国の農業の在り方が示されました。また,厳しさをます環境問題も循環型経済システムへの転換が必要とされ,新法と合わせいわゆる環境3法も公布されました。

 弊社はこれまで環境にやさしい肥効調節型肥料である「LPコート®」,「ロング®」,緩効性窒素肥料「CDU®」をはじめ硝酸系高度化成肥料「燐硝安加里®」,泡状高度化成「あさひポーラス®」,園芸培土「与作®」,打ち込み肥料「グリーンパイル®」等開発上市してまいりました。今後も皆様のご要望にお応えしながら製品の改良を進めるとともに,変革期にある農業政策の展開方向に即した新しい肥料や資材の開発に取り組む所存でおります。

 本誌「農業と科学」は昨年発刊30年を迎えました。これもひとえに各方面の方々の研究成果や新しい技術情報のご提供,読者の皆様方のご理解のおかげと感謝致しております。

 本号では新しい年,新しい農業時代を迎えるにあたり農業の発展に日夜専念されておられる各方面の方々に御寄稿いただきました。今後もさらなる内容の充実化を図り,皆様方にいささかなりともお役に立てればと考えております。本年も相変わらず本誌をご愛読いただきますとともに積極的なご意見,ご批判を賜りますようお願い申し上げます。

 末筆ながら皆様方のご多幸とご繁栄を心からお祈り申し上げ,新年のご挨拶とさせていただきます。

 

 

「農業と科学」通算500号記念号に寄せて

農林水産省農産園芸局
肥料機械課長 黒元 重雅

Introduction

 チッソ旭肥料株式会社の設立30周年と「農業と科学」通算500号の記念号刊行に当たり,心からお祝い申し上げます。

2.農政を巡る情勢

 御承知のとおり,第145回通常国会において,食料・農業・農村基本法が成立いたしました。

 今後はこの新基本法に定められた理念,施策の基本方向を具体化していくこととなりますが,肥料に関しましては農業の持続的な発展という基本理念の下,①農業の自然循環機能の維持増進を図るため,肥料の適正な使用の確保を図るとともに,②農業経営における農業資材費の低減に資するため,農業資材の生産及び流通の合理化の促進その他必要な施策を講ずることとされています。

 第1の,農業の自然循環機能の維持増進を図るための施策の具体化としまして,持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律,家畜排泄物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律とともに,たい肥等特殊肥料の品質表示制度の創設,有害物質を含有するおそれのあるおでい肥料等の普通肥料への移行を主な内容とした肥料取締法の一部を改正する法律が制定されたところであります。

 現在,たい肥等の品質表示基準やおでい肥料等の公定規格の策定作業を進めているところでございますが,今後,このような施策を通じてたい肥等の適正な施用の促進を図ってまいりたいと考えております。

 また,持続性の高い農業生産方式の導入に当たっては,局所施肥等施肥法の工夫により化学肥料の節減を図ることとなりますが,一方で,有機入り肥料や肥効調節型肥料等環境への負荷の軽減に資する肥料の積極的な活用等新たなニーズも生まれてきております。

 このような新たなニーズに対応するため,農林水産省においては,肥料による環境負荷の軽減を図るとともに,肥料費低減等を併せて実現することができる被覆肥料等の高度な機能を有する肥料の効果的な活用方策を検証する「高度肥料利用技術確立推進事業」を実施しているところであります。

 第2の,農業資材費の低減につきましては,これまでも製造・流通・利用の各段階における農業生産資材費低減のための「行動計画」に基づき具体的な取組みを進めて頂いているところです。

 農林水産省におきましても,本年度から,これらの取組への支援をより強化するため,都道府県でモデル地区を設定し,肥料物流の合理化等のメニュー対策を実施していただく「農業生産資材費低減総合推進対策事業」を実施しておりますが,12年度の予算要求におきましては,メニュー対策に単肥の自家配合・活用体制の確立を加え,拡充することとしております。

 更には,肥料空袋などの廃棄物処理の適正化と処理経費の上昇を抑制するため,農業生産資材廃棄物処理適正化事業を新たに要求しているところでございます。

 このように,私どもとしましては,新基本法の下,国内農業生産の増大を図ることを基本とした食料の安定的な供給のためには,肥料は欠かすことのできない,農業生産にとって重要な基礎資材であるとの認識の下,今後の新たな農業の展開に対応するため,関係各位のご理解,ご協力を頂きながら,適切な肥料対策の推進に努めてまいりたいと考えております。

3. end

 肥料を巡る情勢は,近年の作付面積の減少と単位面積当たり施肥量の減少等から需要の減少傾向が続いており,大変厳しいものがありますが,前述のとおり持続性の高い農業を展開する中で新たな農業技術・肥料に対するニーズも生まれてきております。

 被覆肥料開発のトップメーカーである御社の技術力には大きく期待しているところであります。また,今後とも「農業と科学」により先端的な農業技術情報の提供をお願いし,我が国の農業発展に大きな役割を果たされることを祈念して私のお祝いの言葉とします。

 

 

「農業と科学」500号記念発行にあたって

JA全農
肥料農薬部長 岡本 英誠

Introduction

 昨年10月をもって「農業と科学」の発行が500号になり,まずもってお祝い申し上げます。30年の長きにわたり継続してその時代にあった記事を掲載し,配布し続けたことに対し,改めて敬服いたします。また,チッソ旭肥料(株)が求める肥料新技術の水準の高さとその普及に対する情熱の深さをまざまざと感じ入っております。

2.肥料の開発と背景

 500号までの期間,農業をめぐる環境の変化には著しいものがあります。第1号が出版された昭和30年代は戦後の復興期の真っ只中で,農業も食糧増産にむけてさまざまな技術革新がなされていたころです。水稲では機械化農業が始まり,技術革新と相まって増収が図られたころであり,さらに野菜や果樹,花などの栽培面積も増えはじめ,肥料の持つ作物生産への役割がこれまで以上に高められた時期でもあります。

 その後肥料の技術革新は,40年代に入り化学合成による緩効性肥料や被覆肥料の開発,田植機とのセットによる局所施肥技術の開発,さらには野菜等での液肥などの普及を経て今日にいたっているものと考えます。米を中心にした食糧増産の時代から,野菜,果樹等の振興,さらには機械化を中心にした省力,低コスト化の時代へと変わり,まさに貴社の果たしてきた役割は大きく,本誌もその歴史を追ってきたものといえます。

 この間,貴社はリン安系の高度化成はもとより,さまざまな機能性の高い肥料や資材の開発努力を続けていることは周知のことであります。例をあげると枚挙に暇がありませんが,その技術力は常にわが国の先端を走っていると確信しております。

 貴社の主要な実績を具体的品目とその成果をあげるとすると以下のとおりです。

①硝酸系高度化成肥料:独特の石膏ろ過法により硝酸性窒素リッチの化成肥料を製造し,野菜,果樹などの園芸作物の生産に貢献。
②育苗用床土(与作シリーズ):ピートモスを主体とした野菜,花の育苗用培地を開発し,安定,良質な苗生産に貢献。
③CDU入り化成肥料(タマゴ化成シリーズ):化学合成による緩効性窒素肥料(CDU)を開発し,化成肥料として追肥の省略や濃度障害の回避に貢献。
④被覆肥料(LPシリーズ,ロングシリーズ):尿素や燐硝安加里などの速効性肥料に樹脂を被膜したもの。肥料分の溶出を長期間にわたってコントロールでき,基肥全量による施肥体系などの省力・低コスト化を可能とした。
⑤あさひポーラス:軽く,容易に水に溶けるため,液肥や流し込み施肥用など省力的施肥に貢献。

3.わが国農業と肥料の役割

 さて,翻ってわが国の置かれている農業の状況と今後のあり方について一言述べさせていただきます。いま経済全体が景気低迷する中,農業が置かれている環境も厳しくなっております。米の増産から減反,さらには農産物全体の輸入外圧が加わり,まさにわが国の農業全体が曲がり角にきているともいえます。

 WTOにみられるようにあらゆる商品のボーダーレス化が進み,農産物も例外ではありません。土地集約型であるわが国農業が欧米なみの低コスト化を実現することは難しいといわざるを得ません。しかし,同時に食糧問題も並行して進行しており,発展途上国を中心に世界のどこかで食糧不足や飢餓問題が常に起こっているのも事実です。国の基本物資である食糧生産の自給率向上は,将来予想される食糧問題への対応としても考えていく必要があります。

 また,利便性への偏重は環境負荷を与えることがあり,農業生産上においてもその軽減のための持続的農業など環境に配慮することが求められています。全農も「生産資材費用低減運動」を展開し肥料の低コスト化を追求すると同時に,技術面では「健康な土づくりと施肥改善運動」を展開し,作物生産に最適な土壌条件の整備と環境にもやさしい肥料,施肥技術の開発,普及に取り組んでおります。

 肥料は食糧増産という課題には農産物の生産力を向上させる上で欠かせない生産資材であります。新農業基本法では食糧増産による自給率向上がうたわれていますが,いかに生産性を向上させるかが大きな課題ともなります。この意味からも低コストにつながり,かつ付加価値のある肥料を供給することは全農における重要な任務であるともいえます。

 最後に貴社におかれましては,今後とも農業の発展のため系統とともに肥料,施肥技術の向上への協力,貢献をお願いするものです。

 

 

施肥と環境

農林水産省 農業研究センター
土壌肥料部長 伊藤 信

 作物の生育・生産は土壌の養分供給能に左右される。作目や作期などに関係なく,土壌養分が十分でない限り,正常な生育と目的の収量は得られない。従って,作物生産を高いレベルで持続させるためには,作物に吸収された養分を何らかの方法で補給する必要がある。そのことに最も適している資材が肥料であり,とりわけ化学肥料の果たす役割が極めて大きいと見て良いだろう。その中でも特に,窒素成分は作物の生育に最も多く必要とされ,土壌からの収奪量も多いことから,奪われた分は常に室素肥料として施さなければならないことになる。

 作物の収量と品質の向上は,化学肥料の施用量の増加と施肥法の進歩によるところが大きいといって良いだろう。施肥法はあらゆる作目に共通して,施肥量,施肥時期,施肥位置の組み合わせで成り立っているが,これまではいずれも高品質・多収が主な目的であったと見ている。すなわち,市場性の高い農産物の高位・安定生産こそが,施肥の使命であったといって良いだろう。

 それが今,施肥について,新しい局面を迎えている。それは,作物の品質・収量に加え,環境との調和を念頭においた施肥でなければならないということである。平成11年2月,環境庁は硝酸態窒素を環境基準健康項目に格上げし,指針値を10mg/Lに定めて,地下水,河川水等の公共用水域のすべてに適用するとした。農業地帯の地下水や河川水の一部が指針値を越えている調査結果もあり,この原因のひとつに窒素肥料の過剰施肥が上げられている。

 同時に,我が国の降雨量が極めて多いという気象条件も無視できない。硝酸態窒素は土壌に吸着され難く,水に解けやすい性質のため,土壌の保水力以上の降雨があった時は浸透水とともに地下に溶脱することになる。

 窒素は形態を変化させて自然界を循環していて,畑状態下では硝酸態窒素が生成・蓄積する。また,作物が積極的に吸収利用し,生育には欠かすことができない元素である。とはいっても,農耕地からの地下水等公共用水域への硝酸態窒素の負荷が許されるわけではない。今後は硝酸態窒素の負荷低減に向けて,高精度で簡易なモニタリング手法を開発して土壌中での動態を正確に把握し,その結果を負荷のない施肥法や施肥基準作りに活かしていかなければならないと思っている。

 平成11年7月に制定された食料・農業・農村基本法において,自然循環機能の維持増進と農業の持続的発展が条文化され,肥料の適正使用と地力の増進の施策を講じることとされた。作物の生育・生産は地力を反映し,土壌の化学性,物理性,生物性が豊かでなければそれがおぼつかなくなる。

 肥料は,有機質肥料も,また無機質肥料の代表である化学肥料も,地力の向上のために施用される。有機質肥料はどちらかといえば,物理性と生物性を豊かにし,化学肥料は化学性の向上,とりわけ作物が必要とする養分の供給を担っている。有機質肥料に含有される窒素の大部分は有機態であり,微生物の働きで作物が利用できるようになる。

 一方,化学肥料は取り扱いが容易なうえに,作物が必要とする時に必要な量を与えることができ,しかも速効性で作物が直ちに利用できる。この機能はまた,作物の生育をコントロール可能とすることを表している。

 地力を増進させることが土づくりである。土壌は人間の手で土づくりをしなければ劣化が進み,一度荒廃した土壌をもとの肥沃な状態に修復するには,長い時間と高額の費用を必要とする。従って,持続的作物生産のためには有機質・無機質肥料を活用して常に土づくりをし,地力を高めていく必要がある。この場合,化学肥料は作物の生育・生産を最もコントロールできる,土壌の養分供給能を高める最も有効な地力増進資材である。

 しかし,これからの施肥は,今までと同じように作物の品質と収量を確保しながら,環境と調和した,環境に負荷を与えない工夫が必要である。すでに述べたように,いずれの施肥法も肥料の量と施肥時期・位置の組み合わせであるが,今後は作物が必要とする養分量を適切な時期に施用し,過剰な施肥は避けなければならない。そのためには,簡易で精度の高い土壌診断と作物の栄養診断法が開発され,リアルタイムの診断結果に基づいた施肥が絶対欠かせないと思っている。

 環境保全型施肥の見地から,最も注目される肥料が肥効調節型肥料であり,それを広く有効に活用する必要があると考えている。現在,いろいろなタイプの肥効調節型肥料が開発されているが,肥料の全消費量に占める割合は著しく低いうえに,利用している生産者も極めて少なく,導入意識も決して高いとは言えない状況にある。今後,環境負荷を低減する観点からもさらに積極的に利用されるべきであり,同時に肥効調節型肥料のさらなる高度化にも期待したいと思っている。例えば,作目ごとにそれぞれの養分吸収性に合った溶出特性を持ち,また気象条件や作期・作型に対応するものであればより望ましいと考えている。

 21世紀は適正な物質量を効率的に用いる循環型社会になるであろう。物質循環において農業の果たす役割は絶大であり,その中でも土壌の役割がとりわけ大きいと思う。しかし,土壌は生成に長い年月を要するうえに無尽蔵な資源では決してなく,黙っていても自然に生産性が高まるというものでもない。再生が極度に難しい資源であり,常に培養と保全に努めなければならない。その意味からも,有機質・無機質肥料を有効かつ適切に施用し,健康な土壌を作り,そして維持し,生産と環境を両立させなければならないと思っている。

 

 

被覆肥料の思い出

農林水産省 北陸農業試験場 企画連絡室 企画科
(前 農業環境技術研究所 資材動態部 肥料動態科長)
主任研究官 古賀野 完爾

 昭和50年頃であったか,有吉佐和子による「複合汚染」が出版された。農薬,化学肥料,食品添加物等様々な化学物質が生産や生活の場面で恒常的に使用されているが,これが生態系等の環境破壊をもたらし,また人類の生存に影響を及ぼすといった,懸念と警鐘を示していた内容ではなかったかとの記憶がある。「ぬかみそ」の表面にダニだかカビだかが全く発生せず,これは,使用したダイズに残留した農薬によるのではといった,事例推測も挙げられていたことを思い出す。内容には誤解や推測の域を出ていない記述もあったが,こういったこと以上に,このような警鐘が一作家によって示されたことに驚きを抱いたものであった。

 当時,農林省においても,農林漁業の本来有している環境保全機能を見直し,これらを維持・増進する方向での施策の推進が既になされており,研究面でも「農林漁業における環境保全的技術に関する総合研究」が開始されていた。農林漁業の有する環境保全機能を計量的に解明し,これの活用方策を示すとともに,代替技術を開発すること,また,環境に影響している,或いは影響の可能性がある事例を把握・解析して対策技術を開発する等が研究目的であった。

 ただ,この中には今日問題にされている地球温暖化ガスや,地下水汚染物質等は殆ど取り上げられていなかった。肥料の関わりでは,河川・湖沼の富栄養化にからんだ問題が取り上げられており,圃場外流出に対する有機物施用,肥料の種類,施肥法等の効果の解明等が課題であった。従って,成分を圃場外に出さないような形態の肥料の使用や施肥法が検討され,この中で化学合成緩効性肥料について検討されていたことが思い起こされる。

 当時は被覆肥料は殆ど使用されてはいなかったし,化学合成緩効性肥料も利用効率向上の点で適用上の限界があった。有機物の利用についても,肥料の代替は当然考えられていたが,有機物の分解特性などを体系的に把握することが先決であった。

 このような状況にあって,高い利用効率が期待できる肥料の開発が嘱望されたのは当然の成り行きであると思われた。ただ,被覆複合肥料はこのころには既に販売に乗せられ始めており,被覆窒素肥料も50年代半ばには公定規格が設定されるなど,開発の萌芽はあったが,機能面での開発上の課題が残されていたような印象であった。

 このような中で,チッソ旭が多様なタイプの肥効調節型被覆肥料を次から次ぎへと製品化してきたことに称讃を伴った驚愕を感じた記憶がある。製品の数よりも,被覆技術の開発や成分溶出の基本原理を踏まえた製品開発,そしてその製品には高い利用効率が期待されること,環境負荷の極めて少ない肥料であること等,基礎から応用に至る検討の上に立った製品開発を行った結果に対して敬服したのである。後年,開発の中軸であった藤田さんが「第一回日本土壌肥料学会技術賞」を受賞されたのもむべなることと思った次第である。今日の農業環境に鑑みれば,チッソ旭は極めて優れた先見性があったと思えるが,持ち上げすぎであろうか。

 肥料による環境負荷を抑えるには,何よりも先ず肥料成分の利用効率を上げることである。このため新たな施肥法の開発は重要であるが,この場合でも,養分の溶出を制御した肥料の使用が必要なケースが多くある。成分の利用効率を上げようとする程こうした肥料を利用することの重要性が増す。土地利用型農業の中で,作物の肥料成分利用効率を100%にまで上げることは不可能であるが,現状をさらに上げる可能性は十分にある。

 例えば,植物生育に対応する溶出パターンを示す作物生育感応型肥料などは可能性を満たす肥料のようだ。根が肥料の近傍に到達したとき初めて溶出を開始するといった肥料があれば理想であろう。化学合成緩効性肥料も作物生育感応型肥料に一歩近づいた肥料とかつては言われていたが,現在の被覆肥料には及ばない。しかしその被覆肥料も,温度等に反応した溶出を示しても,必ずしも作物の生育に対応した溶出を示すものではない。今後,施肥を考えるとき環境保全に配慮しないわけにはいかず,でき得る限り環境に負荷をかけない方法を考える必要があるが,そこに「肥料」開発の担う責務は大きい。

 チッソ旭は被覆肥料の開発に著しい成果を上げています。その蓄積された豊富な開発能力と情報をもってさらに発展されんことを期待しています。もっとも,こうした基礎的な研究は国の方も担って,率先して行うべきことであるのでチッソ旭に「おんぶに抱っこ」というわけにはいきません。過去の経緯を省みれば国は何をやっていたのかと言われかねない状況であり,締めてかかるべしと,チッソ旭に教えられた思いを抱いております。

 

 

畑作用新肥料の開発

開発肥料株式会社
技術顧問 早瀬 達郎

1.社会的環境

○ わが国の肥料は戦前から水田用肥料として発達してきた。このことがまた,わが国の気象条件とマッチして肥料による土壌障害・土壌破壊を防いできたと考えられる。

○ 最近の農水省の試算によれば,わが国の穀物自給率は28%と先進各国の中で異例に低い水準とみなされている。これを受けて遅すぎたきらいはあるがようやく,「食料・農業・農村政策審議会」は食糧の安定供給の確保に関する課題として,「不測時における食料安全保障」について施策の対応を求めている。生産面では,①米麦等の緊急増産,②生産転換の実施,③現行農地以外の土地の活用など,を挙げている。このことは食料・飼料用穀類として膨大な量を輸入しなければならない小麦・大豆・飼料用穀物をいくらかでも自給し,穀物自給率を高めようとする試みである。

2.肥料関係としての前提

○ 一方で,ここ十数年にわたって「持続型農業」の振興・維持が盛んに唱えられている。これは唱導し始めた米国の例をまつまでもなく,畑作穀類の増産に起因する農地破壊がその主因である。

○ 他方,肥料の本質は天然供給量の不足を補う資材であること,を前提として,食用作物の養分補給としての既往の施肥をみれば,N,P,Kの肥料三要素を重視するあまり,足りない三要素を補うためには,その他の要素が過剰になることに目をつぶって大量の肥料を施用してきた。短期ならばともかく,また水田でなく畑地で長期にわたれば,肥料成分・副成分の過剰集積による土壌障害・農地破壊は避けられない。

 必要とする肥料成分のみを含有する肥料が望まれる所以である。現在大量生産されている化学肥料のうち,上記の要望に応えられる肥料は,尿素・硝安・リン安など数少ない。その他の化学肥料はすべて必要とする成分をその肥料で施用すれば必ず不要な副成分を過剰に投与することになる。この場合,水田と畑地の差は大きい。

○ また,肥料の効果自体は環境条件により大きく支配されるので,気象・土壌に適合する肥料でなければならない。FAOが毎年出版している”Fertilizer Yearbook”の各国別Consumptionの肥料別シェアによれば,尿素と硝安の全窒素需要量に占める比率は,その国の気象によって明瞭な差異のあることが明らかである。さらにわが国でも,過去に多量需要のあった頃の熔成燐肥の需要が北海道・東北・九州の三大火山灰農地の面積当たり施用量として大差が生じていた理由が気象・土壌などの環境条件にあったことは明白な事実である。

3.作物の種類から

○ 小麦・大豆・飼料用穀物の自給率を高めなければならない基本的理由を今一度考えてみる必要があると思われる。小麦の単位面積当たりの平均収量は,先進諸国ではわが国の約2倍の収量を挙げているが,それが気象条件のためか,パン用小麦に代表される品種のためか,あまり明確ではない。飼料用穀類は現在主流を占めているトウモロコシにこだわるべきか,ソルゴーまたは,極端にはキャッサバに移すべきか,増産する作物の種類を検討する必要がありそうである。

○ 大豆については,内需の2割が豆腐・納豆・味噌・醤油用で,残りの8割が食用油用であり,その搾油かすは飼料用大豆粕として用いられている。大豆の収量増大は品種の問題よりも栽培技術の問題で,主要輸出国の米国・カナダでは平均2ton/haであるのに,わが国では1.3ton/haに過ぎないが,これは転作問題から派生した「括て作り」が影響している。わが国でも条件が整えば600kg/10a以上の整粒収量を挙げた例が各地の共励会などで時々ある。

○ わが国の油脂資源は貧弱で,大豆・ナタネの生産量は僅少であり,大豆油の国内生産量は需要の7%に過ぎない。戦後,ヒマワリ・アブラヤシなどの導入が企てられたが,限られた一部地域以外はいずれも失敗している。わが国の食料資源の輸入にからむ最大問題は油脂資源の開発と確保であろう。

4.肥料関係の対応策

○ 大豆・ナタネのような油脂作物の種実収量と米麦のような澱粉作物の玄米・玄麦収量の単位面積当たり収量を同ーとすれば(例えば100kg/10a),N,P,K三要素の要求量は米麦の2~4倍である。極論すれば,作物の要求する三要素を充分量吸収させることができれば,大豆を大増産させることが可能であるし,「不測時」ばかりでなく,長期にわたって油脂資源を安定化させることができる。

○ 大豆ばかりでなく,畑作穀類を増産するために,また一方の環境保全的見地からも,畑作用新肥料の関係が不可欠であるし,創造しなければならない。そのためには,土壌・植物栄養・環境科学を主とした幅広い基盤に則した知識の取得と応用がなければならないであろう。

 最後に貴社創立30周年・「農業と科学」通算500号記念と重ねておめでとうございます。

 LP・ロングなど画期的な新肥料「被覆肥料」を先駆けて開発された貴社のスタッフに敬意を表するとともに,自社製品のPRばかりでなく,肥料の本質を追求した権威者の連載講座(例えば,高橋英一氏の「ケイ素の生物学」など)を掲載され,雑誌名に恥じないユニークな編輯と称賛いたします。ますます発展されますように。

 

 

新しい農業の時代

財団法人 日本肥量検定協会
理事長 藤沼 善亮

 世界の穀物生産は,今年も順調のようである。4年続きの豊作は間違いないらしい。穀物市場は記録的な安値に揺れている。10月中旬で1ブッシェル(約27kg)あたり大豆は4ドル強,トウモロコシは2ドル弱。それぞれ26年,12年ぶりの安値だという。来年に向けて,穀物の供給には心配なさそうである。輸入国日本は,当面安心である。

 日本の人口は,まもなくピークを迎え,減少に転ずるという。高齢化は一段と進む。高齢化と人口の減少が同時に進めば,その社会の生産力は落ちるのが普通である。農業生産もその例外ではありえない。日本の食料生産は,今以上に不安定になるのだろうか?

 日本の耕地面積は500万ヘクタールを割り,最も大きかった時期の80%にまで減っている。耕作放棄や不作付け面積が増え,裏作も減って耕地の利用率は,最盛期の60%以下である。一方では,日本人の供給熱量2640kcalに対して,摂取熱量は2000kcalという数字もある。食べられずに捨てられる食料が4分の1にもなる。これらの総計が,食料自給率40%という数字である。

 穀物の豊作が続いても,世界の穀物在庫は必ずしも増えていないようである。この傾向はこれからも強まるのかも知れない。世界の必要量の2か月分,という安全な備蓄量を確保していくのは,難しくなる。開発途上国では,人口の増加と食料生産基盤の悪化との不均衡が拡大している。世界一の人口大国である中国の経済発展は,穀物の需要を急増させている。中国は,次の世紀の世界の食料問題を不透明にする大きな要因になっている。お米は3大穀物の中で最も貿易量が少なく。自給的性格の強い穀物である。米の生産と,米を食べる人口の増加とのバランスは極めて不安定である。21世紀,食料がアジアの政情を不安定にするのかも知れない。

 高度経済成長の時代以降,日本はアメリカ生れの消費文明に侵略されてしまった。大量消費は大量生産を生み,大量の廃棄物を生み出した。熱気にあふれた消費時代は終わったが,廃棄物の処理は大きな社会問題として残されている。膨大な量の有機廃棄物は,いま農地を脅かしている。改正された肥料取締法が,農地の安全保障の支えになってくれることを願っている。

 街には食料があふれ,人々は幸せな飽食の時代を楽しんでいるが,そろそろ日本の食卓を支えている世界の事情が見えてくるにちがいない。今,日本農業は,あまり元気のでない状況に置かれているが,行き着くところまで行った所から出発するしかなさそうである。これまでの延長線上でない,新しい農業の展開も期待できる。

 「国民の健康を預かる農業は,国が権限を持つ重要な分野である」と主張するフランス人。「食料の75%を自給するのは,外国には侵されない国民の権利である」と胸をはるドイツ人。日本は食料の自給に国民の関心がうすい珍しい先進国である。生産力の高い豊かな耕地を荒廃させながら,大量の食料を輸入し続ける日本という国を,他の先進国は理解できないに違いない。「特殊な国,日本」と評価される原因の一つかも知れない。

 「食料の自給なくして国家の独立はない」。これはフランスのドゴール元大統領の言葉である。日本人がこの言葉の意味を理解できるまでには,しばらくの時間がかかりそうだ。1993年程度の米の凶作が2~3年続く必要があるのかも知れない。

 平穏な状態が続くのは幸せなことだが,食料増産の技術が風化しないうちに,日本の農業が再生して欲しい,と切に願っている一人である。(1999/11/29)

 

 

資材革命と農法革新

東北大学名誉教授
庄子 貞雄

○ はじめに

 新資材の開発は,時には科学や技術の進歩と大きな起爆的役割を果すことは,良く知られていることである。近年我が国で開発された高機能の肥効調節型肥料も我が国の農法の革新に注目すべき貢献を果たしているようにみられる。

 さて,化学肥料が大量に使用され,農業生産の向上に大きな貢献を果すようになったのは,1950年代以降である。しかしながら化学肥料のなかでも,作物の生産にもっとも大きく貢献し,かつ大量に使用されるN肥料については,さまざまの欠点,一肥効期間が短く,作物による利用率が高くないこと,溶脱,脱窒,アンモニア揮散などによる損失が多いといったことが,大量消費時代に入って間もなく広く認められるようになった。

 そして1960年代に入るとこれらの速効性N肥料の欠点を解決するために,IBDU,CDUなどの緩効性肥料の生産が開始された。しかしこれらの有機合成窒素化合物の分解・有効化は,種々の土壌条件に複雑に影響され,N成分の正確な供給予測が出来ず,合理的な施肥計画を作成するのが困難であった。

 1960年後半から研究開発された藤田ら1)2)のポリオレフィンコート肥料は,このような有機合成窒素化合物の欠点を基本的解決した。彼らの特許によって,1976年にはロングが1980年にはLPコートがそれぞれ旭化成工業(株)とチッソ(株)によって登録された。

 これらの肥料は,世界的にみて最もすぐれた肥効調節型肥料(Controlled release fertilizer,CRFと略記)であり,英名ではControlled availability fertilizer,Programmed fertilizer,Intelligent fertilizerなども使用されることがある。その特性は,理想の肥料の要件をかなり充足するもので,未来の肥料を先導するものとみられている。

○ 肥効調節型肥料と農法革新

 CRFを活用した農法革新には,いろいろのケースがあるが,紙面の都合で,筆者が最近調査したLPコートに関する3つの事例に限定することとした。

 LPコートを活用したもっとも先駆的な革新的稲作技術は,岡山県の西大寺の篤農家横山鹿男らによる民間技術であった。LPコートがチッソ(株)によって登録されるや,その試作品であるリニアタイプのLPコート(註1)を農協指導で直播水稲の全量基肥を現地圃場で実施した。その成果によって,1982年から1984年までの3ヶ年で実に水稲作付面積の80%にこの新技術が普及したといわれる。この伝統は,横山鹿男の後継者横山雅二の住む水門町で,引き継がれ,今日水稲作付面積のほぼ100%が,LPコートを使用する全量基肥施肥の乾田不耕起栽培であるといわれる。

 さてこのような新技術の展開には,いくつかの要因が考えられるが,就中,次の要因が特に重要と判断された。

1)本地区では,田植期のかんがい水が不足することが多いので,水稲の適期栽培には,移植栽培よりも,乾田直播栽培が向いていたこと,
2)農業労働力が農家の主婦に多く依存していることから,省力的稲作が必要であったこと,
3)新技術は,慣行栽培に比べて,1~2割の増収となったこと。

 その後リニアタイプのLPコートの水稲への全量基肥施肥試験が,多くの試験機関で実施され,かなりの成果が認められた。しかしながらリニアタイプのNの供給パターンが水稲のN要求に充分マッチしないという批判も見られた。この批判に見事に応えたのは,1989年に開発された,極めてユニークなシグモイドタイプLPコート(註2)であった。そしてその翌年からこの新肥料についての利用研究が,いくつかの県農試で開始された。

 そのなかで,山形県の上野ら4)による移植水稲のための全量基肥施肥技術とそれを充実した愛知県の北村ら5)の成果が注目される。愛知県では1992年に初めてシグモイドタイプが全量基肥用肥料のブレンドに使用された。その基本となるブレンド肥料の構成は,初期生育のための速効性肥料と溶出期間の短いリニアタイプ,中期生育のための溶出抑制期間の長いシグモイドタイプよりなる。そしてこのブレンド肥料は「ひとまきくん」と命名された。これと併せて水稲の品種特性,Nの天然供給量,生育期間の気象条件なども,新技術の利用に必要な情報となっている。

 愛知県での全量基肥施肥技術は,1993年頃より急速に普及し,1999年に水稲作付面積の40%をこえたものとみられている。

 このような急速技術普及には,
1)県農試による新技術の完成,
2)正確な溶出特性を示すシグモイドタイプLPコートの利用,
3)流通関係,とくに愛知県経済連の積極的な取り組み,
4)専門技術員,県農試,県経済連のメンバーよりなる施肥改善協議会の活躍,
5)県の農業事情(慣行栽培の省力化の必要性,オペレーション農業の拡大,農家の進取な対応など)
 などが,密接に関係あるいは寄与したものとみられる。

 育苗箱全量基肥施肥は,海外の多くの研究者にも大きな衝撃を与えた革新的技術である。厚い肥料層の直上あるいは直下に種籾を播種しても(接触施肥・co-situs placement)正常に発芽し生育できるとは,彼らには容易に信じ難いことであった。

 この施肥法は,初めて佐藤,渋谷6)によって研究され,次で,金田ら7)によって秋田県の大潟村での大規模稲作のための実用技術として完成されたものである。多量の培土とLPコートを均一に混合することの難しさと混合作業中にLPコートの被膜を破壊することの危険性をさけるために開発された層状施肥法は8),大規模農家の育苗作業を容易なものとした。

 育苗箱全量施肥法の確立と普及には,
1)金田らの秋田農試大潟支場の技術開発,
2)篤農家集団であるO-LISA研究会(大潟村低投入持続型農業研究会)の積極的参加,
3)農試,大学,O-LISA研究会,農協,メーカーの密接な交流,
4)シグモイドタイプLPコートの発展的商品である「苗箱まかせ」の開発とメーカーからの情報提供
 などが大きく貢献したとみられる。

 大潟村での普及状況をみると,1993年に始めて少数の農家によって試みられたものが,この数年急速に広がり,1999年には30%近い普及率となっている。そして数年後には,50%に達するものとみられている。

 この画期的な施肥法を導入した農家は,
1)この施肥法は,大規模経営にとって受入れ易い安定技術であること,
2)根ぐされや地力ムラの影響が軽減され,生育が均ーとなること,
3)Nの施肥量を慣行の50%まで節減できること,
4)田植前後の繁忙期に,本田での施肥作業が不要となり,心理的にもかなりのゆとりができること
 といった意味ある経験談を述べている。

 さらに金田ら7)は,大潟村の低湿重粘土の稲作のために,育苗箱全量施肥技術と不耕起移植栽培とを結合した新技術をも創り出している。そしてこの新技術に不可欠の移植機がO-LISA研究会の山崎らによって試作され,最近ようやくメーカーによって本格的な移植機が製作される至っている。これを契機に育苗箱全量施肥・不耕起移植栽培が急速に普及することが期待される。

 以上の外に,岡山県や愛知県で開発された全量基肥施肥の不耕起直播栽培法,熊本県で開発されたセル苗を利用するハウスホウレンソウやレタスの1回施肥多作栽培法(8~10回の連続栽培も可能),一方このような生育期間の長い作物への育苗ポット全量基肥栽培法など,種々の興昧ある新農法が,CRFの特性を生かして開発されている。

 以上から肥効調節型肥料の急速な普及は,普通肥料の単なる代替的役割ではなく,本肥料の特性を効果的に活用した革新的技術の開発によることが明らかであろう。筆者が海外出張で多くの研究者から受ける肥効調節型肥料についての最初の質問は,大抵普通肥料と比較した価格問題である。その時には,いつも肥効調節型肥料による農法革新のメリットを含めた全体を経営学的並びに社会学的視点から,そして今後は,これらに加えて環境経済学的視点からも,論議して欲しいと繰り返して述べることにしている。

○ 新しい挑戦

 農業は,今日さまざまの重要な課題を抱えているが,そのなかで農業環境問題,農産物の品質・安全性と単収の向上に対する今後のCRFの貢献について簡単にふれてみたい。

 過去数10年間,世界の多くの国では,農業生産を高めるために,化学肥料,特にN肥料の多投が行われ,それが深刻な農業環境問題を引き起こす重要な原因の1つとなってきた。そのため世界の各国で,これを解決するために,農業環境政策が打出されている。

 筆者は,N肥料の多投による環境問題では,作物による肥料Nの吸収利用を最大にし,目標収量を得るための施肥基準を慣行基準より低減することが,最良の対策と考えている。そのためには,高機能のCRFを活用する革新的農法がもっとも有効な方法の1つとなろう。

 すでに述べたように,秋田の大潟村では金田ら7)によって,育苗箱全量施肥のLPコートのNの利用率が約80%,そして農家によるNの減肥率50%が達成されていることから,水稲によるNの利用率を50%向上し,施肥レベルを50%減少することは,さほど困難ではないであろう。もしこのような施肥条件で慣行並の収量が得られるならば,N肥料による環境負荷は慣行施肥の数分の1まで低減することができる。

 集約農業の農産物の品質の安全性には農薬だけでなく,化学肥料の多投も大きく関係している。たとえば野菜のNO3集積問題は,N肥料の多投が関係し,今日大きな問題となっている。所でN栄養としてのNO3とNH4は,長い間植物栄養生理学の研究対象であったが,その成果は,栽培作物の施肥法とは,ほとんど無縁な存在であった。しかしながら農産物の品質の安全性の向上のために必要なNの形態とその供給パターンが明らかであれば,今日圃場条件でもCRFを活用することによって,ある程度その目的を達成することができよう。

 たとえば,葉菜類の初期・中期の生育には,NO3を,そして品質・安全性の面から収穫期前にNH4を供給できるCRFのブレンド肥料の施肥が有効である。事実,建部ら9)は,ホウレンソウを用いて,CRF施肥によって人間の健康に有害な硝酸やシュウ酸を減少し,有用なアスコルビン酸や糖を増加できることを明らかにしている。また超多肥で知られている茶樹は,好アンモニウム植物であることから,アンモニウムを継続的に供給できるLPコートの施肥は,葉の品質向上と減肥に大きく貢献できることになろう。

 今日我が国では,作物の多収問題は農業研究のテーマとしては,重要視されていないが,世界の人口と食糧問題を考えれば,単収向上は,最重要課題である。大崎ら10)の研究でも明らかなように,作物のN要求にマッチするCRFからのN供給パターンは,多収に効果的である。一方,適期のN施肥困難な低生産土壌,例えばアジアに広く分布する天水低地田での全量基肥施肥技術は,水稲生産性を著しく高めることになろう。

○ おわりに

 今日のわが国の農業では,望ましい新技術であっても,導入困難なことが多い。このような状況のなかにあって1999年7月28日に公布された持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(農林水産省令)は,21世紀の日本の農業を大きく方向づける画期的なものとなろう。この省令の中で,普通肥料の施用を減少させる効果の高いものとして,局所施肥技術,肥効調節型肥料施用技術(水稲作の育苗への施用も含む)と有機質肥料施用技術を定め,普通肥料の施用量を少なくとも2~3割減少することが期待されている。

 筆者は,このような積極的かつ具体的な技術誘導は,未だ諸外国の農業環境政策ではなされていないとみている。これを契機にさらなる高機能の肥効調節型肥料の開発とその農業利用に関する技術革新が進み,それが新しい農業の発展に貢献できることを願うものである。

(註1)水中あるいは飽和湿度の条件で,その溶出が直線的なLPコート製品。本稿では,便宜上リニアタイプと呼ぶことにする。

(註2)水中あるいは飽和湿度の条件で,その溶出がS字型のLPコート製品。本稿では,便宜上シグモイドタイプと呼ぶことにする。
 上記の内容は,一部,秋田農試とO-LISA研究会のメンバーによる

References

1)Fujita, T., etal.:Method of producing coated fertilizers. US patent 4,019,890(1977)

2)Fujita, T., etal.:Coated granular fertilizer capable of controlling the effects of teh temperature upon dissolution-out rate. US patent 4,369,055(1983)

3)Shoji, S. and A. T. Gandeza:Controlled release fertilizers with polyolefin resin coating. Konno Printing, Sendai(1992)

4)上野正夫他:土壌窒素と緩効性被覆肥料を利用した全量基肥技術,土肥誌62(6)647-663(1991)

5)北村秀教・今井克彦:肥効調節型肥料による施肥技術の展開1.水稲の全量基肥施肥技術,土肥誌66(1)71-79(1995)

6)佐藤徳雄・渋谷暁一:全量床土施肥による水稲の省力施肥栽培について,日作東北支部報34,15-16(1991)

7)金田吉弘他:肥効調節型肥料を用いた育苗箱全量施肥による水稲不耕起移植栽培,土肥誌65,385-391(1994)

8)金田吉弘他:肥効調節型肥料による育苗箱全量施肥法1.肥効調節型肥料の層状施肥,東北農業研究,47,115-116(1994)

9)建部雅子他:緩効性窒素肥料の施用がホウレンソウのシュウ酸,アスコルビン酸,糖,硝酸含有率に与える影響,土肥誌67,147-154(1996)

10)Osaki, M., etal:Productivity of high-yielding crops 1. Companson of growth and productivity among high-yielding crops, Soil Sci. Plant Nutr., 37, 331-339(1991)

 

 

~編集後記~

 「農業と科学」が創刊以来500号を迎えることができましたことを深く感謝いたしております。貴重な試験成績やご見識をご執筆いただきました数多くの先生方には心から御礼申し上げます。私どもの記事は「農業と科学」という大きな領域のほんの一部分しか埋められなかったものと思われますが,とにかく「継続は力なり」という言葉を頼りに進めてまいりました。

 「農業と科学」の編集を通じて,農業が肥料に求める機能は何かを教えていただき,農業に貢献できる肥料は何かをいささかなりとも考えてこられたのではないかと喜んでおります。おかげさまで「燐硝安加里®」「緩効性肥料CDU®」「被覆肥料LPコート®,ロング®」「与作®」はその機能性を高く評価いただいております。

 昨年,新農業基本法が制定され自給率の向上を目指して農政は進み始めました。また,省資源型・循環型技術を元に持続的農業の発展も期待されております。私どもはこのような農業の変革期に貢献できるよう新たな気持ちで取り組みたいと決心しております。

 「農業と科学」は皆様との貴重な情報・意見交換の場であります。これまで同様のご指導,ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

編集人
副社長
技術部長 柴田勝